韓国のヴォーカル&ダンス・グループが日本へ進出する先駆けになったのが、BoAと東方神起であることはご存知の通り。彼らは日本語をマスターした上で、日本に長期滞在し、国内アーティストと全く変わらない活動スタイルで成功を収めました。当時、エイベックス・グループのマネージメント・セクションにあったコンサートルームに在籍し、両者を担当していたのが菊田洋子さん。現在は台湾を含めたアジア・アーティストのイベントやコンサートなども手がけるエイベックス・ライヴ・クリエイティヴ(以下、ALC)の国際プロジェクト課と制作課に籍を置き、SUPER JUNIOR(アジア全域で人気が高い韓国のトップ・グループ)などを担当しています。BoA、東方神起、SUPER JUNIORなどが所属するS.M. ENTERTAINMENT JAPAN(韓国の最大手プロダクションの日本支社。以下、SMEJ)との新たな業務提携のもと、手がけるアーティストも広がりつつある菊田さんに、K-POPのコンサート制作のポイントを伺いました。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
K-POPライブ元年
エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ
「来日型」のコンサート制作
BoAや東方神起が最初にブレイクした頃と、近年担当されているSUPER JUNIORでは、コンサート制作の面で、どのような点が変わってきましたか。
BoAや東方神起は、日本語の曲を歌っていましたし、コンサートの制作も日本のアーティストと全く変わりませんでした。スケジュール面でも約1カ月くらい、日本でのリハーサル期間がとれていましたし、本人達が日本語を理解できるので、バンドやダンサー、ヘアメイクやスタイリングも、ほとんど日本人のスタッフでした。ツアーに出る際の、各地のプロモーターの方々とのやり取りも、日本のアーティストの時と同じでした。
SUPER JUNIORの場合は、基本的にアーティストも、韓国から同行してくるマネージャーの方も日本語が話せません。SMEJには日本と韓国のバイリンガルの方がいて、その方を窓口に韓国側とコミュニケーションすることになります。コンサート自体も、最近のK-POPアーティストは、リハーサルを全部韓国で行なってくる場合が多いんじゃないでしょうか。
韓国のアーティストが「滞在型」から「来日型」へと移り変わりつつありますよね。
SUPER JUNIORは、両方が混在している感じでしょうか。韓国では韓国向けのコンサートを、日本では日本向けの企画をやりましょうということで話が進んでいて、日本でのコンサートは、こちらでセットリストを決め、映像やスタッフも用意をしているんです。もちろん、SMEJを通して韓国側のマネージメントやA&RのOKはいただいています。そこにアーティストに入ってもらって、韓国語の曲をセットリスト通りに歌ってもらう。前日だけリハを設けて、ダンスの流れなどを本人達に確認しています。
昨年コンサートを行なったSUPER JUNIOR-K.R.Y.(3人のメンバーによる別ユニット)の場合はまた違っていて、K.R.Y.では韓国でコンサートをやったことがなかったんです。それで「日本で初ライブをやってみませんか」と提案をして、日本のバンドをバックに歌ってもらうことになりました。写真やプロモーション素材は、日本からカメラマンを連れていって作りました。それが結果的に成功して、台湾でもコンサートが開催されることになったんです。
コンサートの企画・構成を日本側でやるとなると、SUPER JUNIORというアーティストに対しての相当な情報と理解が必要になりますね。
基本的には全部の曲を知っていなくてはいけないですし、私自身、BoAや東方神起を担当していた5~6年前から、K-POPをよく聞くようになったんです。それまでは全然興味なかったのに(笑)。SUPER JUNIORも、曲はすべて把握しています。
日本で育てるK-POPライブ
言葉の問題以外で、韓国側とのスタッフとコミュニケーションをとる難しさを感じることはありますか。
SUPER JUNIORについては、2月に彼らの大規模なアジアツアー「SUPER SHOW」を日本でも初めて開催するのですが、これは他国でやっているステージをそのまま持ってくるのが基本ですから、各国と日本の違いを必然的に意識することになりました。これまではSMEJだけを窓口にして、日本側で企画を進めてきたのが、「SUPER SHOW」の場合、今まで関わったことのない韓国のコンサート制作会社とも話をする必要が出てきたので、調整事項が増えたことも確かです。それとALCが国際プロジェクト課を設立した昨年の5月以降は、韓国ドラマのイベントやファン・ミーティングなども手がけるようになって、日本と韓国におけるビジネスの進め方の違いをより感じるようにもなりました。
例えばステージで使用できる火薬の量とか、観客の上を宙づり状態で通過してはいけないとか、日本は他のアジアの国に比べて法的な制限が多いですよね。その点をきちんと説明しないと「なぜ日本ではできないの?」ということになってしまいます。こういったことは一歩一歩、理解してもらえるように努力していくしかないと思っています。
もともと日本と韓国のライブ事情は、どんな点に違いがあるのでしょうか。
韓国ではコンサートにお金を払うという文化がまだ浸透していないことが一番大きいと思います。実際にごく一部のトップアーティストしか、単独の有料コンサートは開催できませんし、日本のように完全ソールドアウトで当日券が買えない公演はほとんどないんじゃないでしょうか。トップアーティストでも、当日に行けば大体チケットは買えます。また、手頃なホールクラスの会場がほとんどなくて、ライブハウスかアリーナ、スタジアムしかないところも韓国の特徴です。
K-POPのアーティストが日本で本格的なコンサートを開催したり、全国ツアーを行なう場合、どんなところが問題点になってきそうでしょうか。
私がBoAや東方神起を担当し始めた頃と違い、現在はスケジュールの調整が韓国主導になっています。全国ツアーといっても、東京から一旦ソウルに帰って関西空港から大阪入りしたり、福岡空港から九州入りする場合が増えるでしょうから、日程を組むのが難しくなるでしょうね。
それとK-POPのアーティストのコンサートは、チケットが高いこともあって、今後はファンに経済的な余裕がなくなってくることも予想されます。K-POPの場合、個別のアーティストにファンがついているというより、俳優のファン・ミーティングもアイドルのコンサートもみんな行きたいという人が多いので、そこは心配ですね。今年以降は、例えばワンマンは行くけど、複数のアーティストが出演するイベントは行かないとか、ファンの間でも取捨選択されていくと思います。そうなると当然コンサートの質も問われてきて、やっぱりいい内容のステージをできるアーティストが残っていくんじゃないでしょうか。ライブに慣れていないアーティストの場合、日本の制作側が、どう日本向けに内容をアレンジしていくかも問われると思います。