会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
フェス白書2010 これまでの10年、これからの10年
「これまでの10年」の中に「これからの10年」へ向けてのヒントがある
夏の終わり〜秋に発行される号で、毎年お届けしている特集「フェス白書」。今年はこれまで約10年続いてきた全国各地の夏フェスを、さらに10年続けていくことをテーマに、沖縄「うたの日コンサート」、福岡「HIGHER GROUND」をクローズアップします。
うたの日コンサート2010
10年間不変の開催意図
1997年にFUJI ROCK FESTIVALが誕生、その後、全国各地で開催されるようになった「ロック・フェス」「夏フェス」は、10年以上が経過した今もその多くが存続しています。フェスの時代ともいえる「これまでの10年」で、コンサート・プロモーターへの注目度は間違いなく高まりましたが、一方では独自性をアピールする難しさ、観客動員を含めたターニングポイントの到来も囁かれており、フェスの担い手にとっての重要なテーマは「これまでの10年」より、「これからの10年」へ向けて、どのように自社が手掛けるフェスを存続させていくか—に移ってきたといえるでしょう。そこで今年の「フェス白書」では、「これからの10年」へ向けてのヒントを与えてくれそうな、2つのフェスを取り上げたいと思います。
「フェス白書」では毎年、全国のフェスの担い手の皆さんを取材してきましたが、今後のポイントとして多くの方が挙げたのが「フェスのカラー、開催意図の明確化」「出演アーティストのラインアップにかかわらず、フェス自体が観客に支持されること」「地域色豊かな内容、地元に密着した運営」などでした。その中で「開催意図の明確化」「地域性」という点で出色なのが沖縄で開催されている「うたの日コンサート」です。「うたの日〜」は、BEGINの呼びかけで2001年にスタートしたフェスで、途中「うたの日カーニバル」という名称になったこともありましたが、開催10年目となる今年も「うたの日コンサート2010」が、6月26日に西原マリンパークで行なわれました。主催は5社が参加する「うたの日実行委員会」で、そのうちBEGINの所属プロダクションであるアミューズがブッキング、トータルのプロモーション、移動行程などを担当、ACPC加盟社のピーエムエージェンシーが会場運営、県内プロモーションを担当しています。
「うたの日〜」の開催意図は6月26日という開催日に込められています。BEGINのメンバーは同フェスを企画するにあたって「沖縄では6月23日を戦争が終わった日(慰霊の日)として迎えます。かつて歌の島沖縄で歌い踊ることさえ禁止された時代があった事、けれどやっぱり島人は我慢できずに、山の中や防空壕の中で小さな声で、歌い踊り勇気付けてきたという事を子供達に伝えやすくする為に、あえて慰霊の日の翌日を歌が開放された日『うたの日』として位置付け(中略)沖縄県外から参加して頂ける方や、子供からオジー・オバーまで、多くの方に参加して欲しいという思いから、(『うたの日コンサート』を)6月24日以降の土曜日か日曜日に開催しております」とコメントを寄せていますが(HPより引用)、ピーエムエージェンシーの長勝也さんも「10年目を迎えても、その開催意図は全くかわっていません」と、アンケートによる取材に応えてくださいました。
地域に密着、幅広い層に対応
沖縄の歴史や地域性に根ざした思いは、出演者の顔ぶれにも反映されています。今年は南こうせつ、Perfumeといったビッグネームが登場しただけではなく、平均年齢75歳の石垣島のダンスホール楽団である白百合クラブ、ビッグバンドの沖縄交響楽団、ウクレレを弾き語る17歳のなゆた、沖縄ヘヴィメタル/ハードロックの雄2 Side 1 BRAINなどが出演、さらにはご当地ヒーロー、琉神マブヤーのショーがサプライズ・アクトとして行なわれました。
「出演者の人選は、開催意図に賛同していただいているアーティストであることと、幅広い音楽性と年齢層を基準にしています。BEGINのメンバーを中心に話し合い、どの音楽ジャンルが好きな方にも、どの年齢の方にも押しなべて楽しんでいただけるようなアーティストのラインアップを作っています」(長さん)
また、会場の西原マリンパークが西原町と与那原町をまたぐ位置にあることもあり、それぞれの町長もステージから挨拶。自治体がこのフェスを応援していることも窺えます。
「近隣の町に対しては、関係各局(町、警察、消防)との密接な連携、周辺住民のクレームへの真摯な対処、フードエリアへの出店の優遇、ボランティアでのイベントへの参加などを積極的に行なっています」(同)
開催意図と地域性は変わらない「うたの日〜」に変化があったとすれば、有料イベントとしてスタートし、その後無料になり50000人まで動員規模が拡大、安全面や会場の環境維持への配慮から今年は再び有料(1000円/入場者数は約20000人)になったところでしょう。
「最初に有料だった時は、コンサート観覧中心の大人の方が多かったのですが、無料にしてからは家族連れが増え、会場の雰囲気や出店なども楽しむお客さんが増えました。今年、有料に戻しても、それは大きくは変わりませんでしたね。ただし、運営面では、侵入に対する外周警備、ブロック指定にしたことによる入口業務などが加わりましたし、お客さんからのインフラに対する希望(会場へのアクセスの利便性、トイレなど会場内の快適性)に応える必要も出てきました。一方で無料だった時は、実際の入場数が明確に分からなかったのですが、チケットを販売することによって入場者数の管理・制限、会場に持ち込める物の制限ができるようになりました」(同)
1000円という入場料や郷土愛によって育まれたフェスの内容は、「うたの日〜」ならでは—という面も強いため、他のエリアで取り入れるのは難しいと思われますが、今後の展望を問われた長さんの「継続して開催していくことが、メンバー含むスタッフ全員の最大の目標です」という言葉でもお分かりいただける通り、息長くフェスを存続させていく指針として、参考にできる点は少なからずあるのではないでしょうか。