撮影: 宇都宮輝
「東京オリンピック・パラリンピックのレガシーは、音楽で支える部分も多くなってきています」(平田)「今だからこそ、僕らも同じ思いをスポーツ界と共有できると思います」(中西)
本誌VOL.21のACPC団体設立25周年を記念した鼎談企画で、永田友純さん(2001年から2008年まで会長、現・監事)が、88年の設立から2年の早さで社団法人化を果たした経緯を振り返り、「何より当時の通産省の課長補佐だった平田竹男さんのお陰です」と語っています。平田さんは当時、Jリーグの発足やW杯の招致にも深く関わっており、退官後は日本サッカー協会の専務理事に。以降も様々な立場で日本のスポーツ界の発展に寄与されてきましたが、2013年からは内閣官房参与、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局長に就任。2020年に向けた準備や運営に関する施策を推進するだけではなく、2020年以降も見据えて、次世代に誇れるレガシーの創出に取り組む文化プログラムを「beyond2020プログラム」として認証し、ロゴマーク(左の写真のバックに写っているロゴ)を付与するプロジェクトも行っています。レガシーという言葉に代表される会場問題は、まさにACPCとも共通のテーマ。ACPCは来年で団体設立30周年を迎えますが、このタイミングだからこそ見えてきたスポーツとライブ・エンタテインメントの未来を中西健夫ACPC会長と語り合っていただきました。
中西:平田さんとACPCの歴史は設立までさかのぼります。通産省(現・経済産業省)にいらした時に、ACPCの社団法人化にも深く関わっていただきました。
平田:何か戦前の話のような気がしますね(笑)。80年代の終わりにACPCの皆さんと初めてお会いをして、社団法人化が90年ですか……僕が91年のJリーグの設立を目指していた頃でしたね。当時は貿易摩擦が激しくて、日本でものをつくって輸出するという体系がなかなか難しくなってきた時代で、輸出を前提とした製造業から、国内向けのサービス産業へと向かう流れが生まれつつあったんです。当時の通産省の政策には「ゆとりと豊かさ」というテーマもありましたので、サービス産業の中でも音楽コンテンツやスポーツビジネスなど、やわらかいジャンルの業種も視野に入ったのだと思います。まあ、当時は「コンテンツ」という言葉はなかったですし、スポーツをビジネスに結びつけると怒られた時代でした。
中西:スポーツは教育の枠組の中にありましたからね。
平田:まさにそうでした(笑)。また、消費税の導入(89年)についても、サービス産業はどのように位置づけるか議論がありました。当時は通産省にサービス産業を担当する課はなかったんですが、とにかく日本のサービス産業をどうしていくべきかということで、担当者として送り込まれたのが僕だったんです。
中西:我々の業界側からすると、まだ産業として成熟はしていない段階でしたが、成長の過程にはあったというか、状況が良くなってきたという実感はあった時代だと思います。とはいえ、サンデーフォークプロモーションの井上さん( 故・井上隆司さん/ 9 1 年から9 4 年までACPC理事長)をはじめ、社団法人化を進めた中心メンバーは、省庁の方と対峙するのはほとんど初体験だったわけですよ。行政や政治の世界からは遠いところで仕事をしてきたわけですから。
平田:憶えているのは、井上さんが「この業界の人間と会ってくれる役所の方は、本当に平田さんが初めてなんです」とおっしゃって……当時は正直、本当かなあと思っていました。
中西:いや、本当だと思います(笑)。
平田:それと井上さんと最初に会った時に、「死んだ父親が喜んでくれる」とおっしゃったんです。お父様は検察の方だったそうですが、自分がコンサートの道に進むのを反対されたと。それが「役所の方に相手にされるようになって、父親は絶対に喜んでくれていると思う」という話をされていましたね。
中西:僕らにとって井上さんはとても大きな存在でした。あまりにも早くお亡くなりになって、本当に残念でなりません。
平田:当時に比べて、ライブ・エンタテインメントはスーパー・メジャーになりましたよね。昔はCDを売ることが第一で、次に放送があって、その次にライブという順番だったような気がします。ライブは儲からなくていいんだと皆さんがおっしゃっていましたし。
中西:CDを売るためのプロモーション・ツールでしたね。
平田:今はライブで利益を上げる、ここが勝負なんだという感じに変わったと思います。楽曲をインターネットなどで紹介することは、むしろライブの宣伝ツールになり、産業構造が大きく変わったんですよ。これはもうコンサートプロモーターこそが、聴衆と音楽をつなぐ存在になったということだと思います。
中西:一方で現在はかなりボーダレスになってきていて、プロモーターもプロダクション業務を手がけていますし、制作会社としての側面もあります。さらにいえば音楽以外のエンタテインメントも手がけている。プロモーターだけではなく、レコード会社もプロダクションも「総合エンタテインメント企業」の形を目指し始めている。ですから、混沌とした状態ともいえるんです。