「Slow Music Slow Live」(以下、SMSL)のタイトルは、伝統と自然を大切にする食文化「Slow Food」の考え方を音楽に当てはめて、上質の音楽をゆっくり楽しもうという願いを込めて付けられました。古き良き東京の風情を残す池上本門寺で開催され、大人の支持を集めている同フェスが、当初のコンセプトを守り続ける理由とは? ホットスタッフ・プロモーションのSMSL担当者、高木鉄平さんにお話を伺いました。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
「Slow Music Slow Live」「TREASURE05X」10周年を迎えた二つの「個性派フェス」
全国で開催されているフェス/イベントの中には、大規模型の「メガフェス」だけではなく、会場や運営方法、客層などで他との差別化を図った「個性派フェス」もあります。その代表例といえる「Slow Music Slow Live」(ホットスタッフ・プロモーション主催)、「TREASURE05X」(サンデーフォークプロモーション主催)が今年10周年を迎えました。対照的な特徴がある両フェスが、継続的な支持を得ている理由を探ります。
大人がリラックスできる上質な音楽と「和」のテイスト
高木:SMSLが正式なスタートをした2004年当時(前年は台風で中止)、現在も続いている主なフェスは既に開催されていたので、後発として「とにかく他とは違うフェスを」と強く意識したそうです。具体的には、まず大人が楽しめるフェスをコンセプトにしました。弊社は本来、ロック色が強いプロモーターですが、そこから変えていこうと考えて、初回の出演者はジャズを中心としたラインアップになりました。その後、カフェ・ミュージックというジャンルを取り入れ始め、さらに最近はロック・ミュージシャンがアコースティックセットで演奏することもあります。
全体の雰囲気でいえば、池上本門寺という会場に合った、和のテイストにこだわり続けています。例えば物販で風鈴を売ったり、浴衣を着てきてくれたお客さんにはフルーツをプレゼントして、懐かしいお祭りや縁日のムードを演出しています。客席も全席指定で座って楽しめますし、「らくらくシート」という指定席では、通常のパイプ椅子ではなく、背もたれと肘掛けの付いた椅子とテーブルが用意されていますから、飲食をしながらゆっくりライブを楽しめます。飲食もカクテルがあったり、生野菜のバーニャ・カウダがあったり、少しでも上質なものを、リラックスした空間で楽しんでもらうことを心がけています。
10年続けることができた理由は、今ご説明したようなコンセプトを守り続けてきたことだと思います。SMSLは1日約2000のキャパシティですが、かなりのスペースを使う「らくらくシート」をやめれば、もっと動員を増やすこともできるんです。フードも原価がかからない、いわゆるジャンクフード的なものを出したほうが売れると思います。でも、そういった経済効率を優先させずに「Slow」に徹していることが、お客さんからも信頼していただけているのだと思います。