昨年より政府が進めてきた年金福祉施設の売却・廃止措置は、長年、厚生年金会館(ホール)でコンサートを行なってきた全国の会員社にとって見過ごすことのできない問題でした。特に大阪厚年については大阪の音楽文化が大きく後退しかねない切迫した状況を生んでいます。そこで関西エリアの3理事にお集まりいただき、この問題の現状、そして今後、私達がとるべき対策について語り合っていただきました。(この鼎談は3月17日に行われたものです。以降の動向は次号でお知らせします。また、その他全国の厚生年金会館の現状については次ページでお伝えしています)
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
厚生年金会館存続問題
厚生年金会館存続問題 3理事 緊急鼎談〜大阪厚生年金会館、存続問題を語る
無念の来年3月営業停止
鏡孝彦
2000キャパのホールの存続を今後も訴え続けていきます
鏡:まず、結論から申し上げると、大変残念なことに大阪厚年は来年3月をもって営業停止が決定しています。来年4月以降の使用予約を受け付けないよう、会館側に政府の整理機構から営業停止通知が届くことになります。
鈴置:我々も16万人にご協力いただいた署名や要望書を行政にお届けしましたし、我々以外に反対の運動をされていた団体もあったんですが、力及ばずでした。これが実際は稼働が少ないホールで、無駄な経費がかかっているのなら納得できますが、厚年の稼働率は70〜80%。これはフル稼働に近い数字です。しかし、今回の件は全国の厚年関連施設を一掃する流れの一環でしたから、ホールもホテルもすべて売却の方向で動いていたわけです。病院については別途検討されることになりましたが、個々の施設がどれだけ地域で必要とされているかは関係がないんですよ。
岡田:他の地域でホール機能が存続されることになった厚年も、基本的にはすべて売却された上で、今後は地方自治体などが引き継いで運営していくわけですからね。
鏡:我々の第一の要望も大阪市や大阪府に買い取っていただくことでしたが、「財政的にそれは難しい」との回答でした。3月末現在は、ホールの必要性に理解がある民間企業に買収してほしいと思っています。
大阪地区にはホールが足りない!
鈴置 雄三
最大の問題はもともと大阪地区にホールが足りないことです
鈴置:最大の問題は、もともと大阪地区は公的なホール施設が少ないことなんです。2000以上のキャパのホールは、2008年までフェスティバルホール、グランキューブ大阪(大阪国際会議場)、そして厚年しかなかった。
鏡:スタンディングで2000入るライブハウス、Zepp大阪を含めても4施設です。
鈴置:そのうち二つが使えないとなれば(フェスティバルホールは2013年まで新築工事で閉館中)間違いなく行き場のないコンサートが生まれてしまう。これらは野球場や大阪城ホールのスタジアム/アリーナ・クラスに移行できるわけではありません。一方では、PA設備・機材があるライブハウスは別にして、ホールでのコンサートは多くの場合、1000までのキャパだとビジネスが成り立ち難いでしょう。2000キャパのホールがないのなら、800キャパを3日間やればいいという問題ではないんです。
鏡:まずは残っているホール、例えばグランキューブ大阪でできるかどうか探ることになります。それが難しければ、大阪市以外の郊外のホールをあたるしかないですね。
岡田:2000キャパだと西宮と京都、神戸が二つ……大阪市で観られないコンサートが出てきますね。
鈴置:そう、ユーザーにもアーティストにも迷惑がかかるし、不便な思いをさせてしまうでしょうね。
市も大ホール設置を義務付け
岡田 哲
このままでは大阪市で観られないコンサートが出てきます
鈴置:今後についてはまず、入札に参加される企業の皆さんに、世論の後押しを含めてホール機能の存続を訴えていくことですね。「なんとかこの地に2000キャパのホールを残してください」と。それが叶わなかったら、行政及び民間に文化施設建設の嘆願をしつつ、例えば仮設ホールでもつくれるような道を探っていくことになるでしょう。
岡田:大阪市が民間への売却の条件として、「最低1000、そして2000にできるだけ近いキャパをもったホール機能の維持」を挙げてくれている点は、せめてもの我々の運動の成果だといえるかもしれないですね。
鏡:いずれにせよ「大阪にはコンサート施設が足りない」ということを訴え続けていくことが大事だと思います。今後、行政の状況が変化することもあるわけですから。
鈴置:これは大阪のコンサート・プロモーターだけの問題ではなく、プロダクションやレコード会社を含めて音楽業界全体の問題だと認識してくださっているからこそ、関係諸団体も存続運動に協力してくださったと思います。さらに実際に厚年がない状況になって、郊外に足を運ばなくてはいけなくなった時、必ずユーザーの方々も大きな声を上げてくださると信じています。